開店前の準備に追われる夕方。
床を掃き、カウンターを磨く。

そう、それはいつもと変わらぬ風景。

そこへ、突然私の携帯電話が鳴る。

携帯電話が示している発信元の電話番号は、
私が登録してない番号。
携帯番号の『090』や『080』の番号ではなく市外局番なので、
どうやらどこかの家からか、会社からの電話に違いない。

「きっとどこかの業者さんだろう」
そう思いながら電話に出る。

「もしもし」と電話を出ると、電話口の向こうからご年配の女性の声で、
「あれ?杉本さんじゃないですね?」

もちろん私は杉本さんではないので、
「ええ、杉本さんではないですね。」と答える。

するとおば様は、「あら、間違えちゃった、ごめんなさい。」と返事。

ただの間違い電話だったので、そのまま電話を切ろうとする私。
「いえいえ、いいですよ、じゃあ・・・。」

切ろうとする電話口の向こうから声が聞こえる。
「ちょっと待って、待って、待ってー!」

「はい、なんでしょう?」
とおば様の声に耳を傾けた私。
ここからが開店準備に忙しい私の時間を狂わせることとなった。

【以下、私&おば様のやりとりです。どちらがどちらか想像しながらお読みください】

「ねえねえ、あなた杉本さんじゃないのよね?」
「ええ、違いますよ」
「今、私が電話してるこの電話は、090-●●●●-△△△△なのかしら?」
「そうですね、その番号は私の番号ですね」
「あらー、じゃあやっぱり私番号間違えちゃったのね。」
「番号間違いというより、その番号私の番号なんで、控え間違いじゃないですかね?」
「そうねー、困ったわねー、ごめんなさいね。」
「いえいえ、いいですよ、それじゃー・・・」
「ちょっとちょっと、もう一度いいかしら?あなたの番号は090-・・・・・」
「ええ、その番号ですよ、私の番号です。」
「あらー、そう。実は私ね、最近この場所のレジを打つことになったんだけどね、
使い方が全然分からないから困っちゃってね。
杉本さんっていう社員の方に使い方聞こうと思って電話したのよ」
「ああ、そうなんですか・・・あの、私、忙しいんで・・・」
「杉本さんね、今日会社休みなのよ。
他に聞ける人もいないから困っちゃうわねー。」
「ええ・・・そうですねぇ・・・あの・・・。」
「杉本さん、男性なんだけど、あなた女性だから声が違うでしょ?
それで、違う人だなって思ったのよ。」
「ええ、そうですね・・・」

そんなこんな、マシンガントークのおば様は、延々話すこと十数分。

なぜ自分が間違えたのか、どうやって間違え、どこで間違え、いつ間違えたのか。
その説明を延々と話して下さった。

何度も一方的に切ってしまおうかとも思ったけれど、
きっとこの調子だと「いきなり切れたわよ〜」なんてまたかかってきそうだったので、
切ることができなかった。

間違い電話がかかってくると、大抵、向こうが間違えたのに一方的に切られるか、
間違えましたすみません、で切れるかどちらかだと思う。いや、思っていた。

どこのおば様か知らないけれど、間違い電話だけですごい長電話をしてしまった。

その後、そのおば様からの電話はない。

同じ日本で起こった時間と場所を超えた変な電話。
今も日本のどこかであのおば様は元気にマシンガントークしているに違いない。
どうぞ、お元気で。

そして杉本さん、入りたてのおば様方にはしっかり電話番号教えてあげてくださいね。

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